短編 | ナノ


▼ 五伏





なんて面倒な人なんだろう。

人生なんて平凡に過ごすのが1番だ。困らないくらいの友人を作って、ほどほどに勉強をして、趣味を作って好きな時間を過ごして。平凡が1番だ。まあ少し間違えたといえば平凡から程遠いこの仕事を選んだことが一つ。それから、そんな面倒な人を好きになってしまったのが一つ。

その人は平凡には程遠く突出した才能の持ち主だった。嫌味なくらいになんでも出来るくせに、友人なんて作らず、勉強なんて必要なかっただろうし、趣味なんかもってのほかで、一見つまらない人だと思った。勿体無いとは思わないのか。自分に僅かに足りないものを補ってしまえば、この人はもっと楽に生きられるだろうに。
だけど何故かすごく興味がわいた。この人は、生きがいのない人生をただ死んだように生きているのか
やはりそんなわけではなかったのだけど。
八田美咲。奴の存在があの人の中心で全てだった。鉢合わせる度にくだらない喧嘩をして、その度に満足そうな顔をして、なんだ別に死んだような人生を生きてるわけじゃないんだな、と。少しガッカリした。


「五島、ここ間違ってる。やり直して持ってこい」
「あ、すみません」

伏見さんのデスクに駆け寄って書類を受け取る。らしくないな、と渡されてんふふ、と笑えば真面目にやれと強く言われてしまった。大人しくデスクに戻ろうとしたとき、

「待て」

引き止められてぴたりと足を止める。なんでしょう、と後ろを振り向けば伏見さんが手招きした。

「ここなんだけど」

説明しながらキーボードを鮮やかに叩いて僕とは比べ物にならない早さで進めていく伏見さん。それを見て素直に関心した。どこで覚えてくるんだろうこんなの。

「はぇー…すごいですねぇ」
「覚えたらさっさと戻れ」
「はーい」

あの人にとって僕はなんでもないような存在なんだろう。例えばこの書類を間違えたフリをしてシュレッダーにかけてしまったとしても怒鳴りちらしたあとすぐに自分で何とかしてしまうのだろう。例えばこのやり方を知ってて僕がわざと間違えたことを知ったら怒鳴りちらして僕をぶん殴るだろうか。舌打ちしたあともういい、と言われるかもしれないな。
どんな風に気を引くようなことをしたって、嫌われるようなことをしたって、伏見さんはどうせ僕を見ない。それを僕は知ってるし、伏見さんも知っている。

それは伏見さんの八田美咲への執着にも言えることだと、気づかないのだろうか

どんなに気を引くようなことをしたって、嫌われるようなことをしたって、八田美咲は伏見さんを見ない。伏見さんが見るように見ることは、無いのだ。

僕はずっと伏見さんしか見ていないのにこっちを見れば楽なのになんて面倒な人なんだろう

「伏見さんがやってはくれないんですね」
「やるわけねーだろ。ふざけてんのか自分のことは自分でやれ。」
「冗談ですよ、ふふ」
「……お前面倒な奴だな」


あなたにだけは、言われたくない





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